最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)2109号 決定 1960年6月21日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人の上告趣意について。
所論は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
弁護人平野利の上告趣意(補充書二通を含む)第一点について。
論旨は、一審判決がその判示第二の応預合罪を認定する証拠に供した横川二郎に対する司法警察員および検察官作成の各供述調書は強制によるものであることを前提として、右一審判決を支持した原判決は憲法三八条に違反すると主張する。しかし、この点に関し原判決は「本件取調に当ってはこのような職務上当然とすべき程度以上に常規を逸脱し拷問に類似するような取調をしたとは認められないし、横川二郎がこの取調に畏怖心を生じ精神的にも衝撃を受けたとすることもできない」と判断しており、本件記録に徴するとこの判断は正当であり所論の違法は認めることができないから、所論違憲の主張は前提を欠き採るをえない。
同第二点について。
論旨は、原判決および一審判決は商法四九一条の預合罪および応預合罪を不当に拡張して解釈し、適法行為までも処罰するもので、罪刑法定主義を破り憲法三九条に違反すると主張する。しかし、所論の実質は、被告人の所為が商法四九一条後段所定の応預合罪を構成しないとする、単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、商法四九一条後段にいわゆる応預合罪は、株金払込取扱機関の役職員らが同法四八六条一項に掲げる者と通謀して株金の払込を仮装する行為をなすことを構成要件とするものと解すべきところ、本件においては、株金払込取扱機関の役職員である被告人が半田信栄と共謀し、株式会社進光商店の設立発起人である永瀬進一、同小倉光司と通謀して株式会社進光商店の株金の払込を仮装する行為をなしたものであり、右通謀仮装行為の一環として横川二郎を介在させたに過ぎないのであるから、横川二郎を介在させたことによって、右通謀して株金の払込を仮装する行為をなしたことに何らの消長をきたすものではない。
この点に関する原判示は正当である。)
同第三点について。
所論は事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
同第四点について。
所論は、原判決は「経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律」二条の解釈を誤ったという単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、所論は当裁判所の判例「昭和二八年(あ)第五六二六号、同三一年二月二九日第二小法廷決定、刑集一〇巻二号二五二頁」の趣旨に副わない主張であって採るをえない。)
同第五点について。
所論は事実誤認の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
弁護人成瀬清の上告趣意(補充書二通を含む)第一点について。
所論は弁護人平野利の上告趣意第一点について説示したと同一の理由により採用できない。
同第二点について。
所論は違憲をいうが、その実質は単なる法令違反、事実誤認の主張を出でないもので刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
弁護人大橋光雄の上告趣意第一点について。
所論は憲法三一条、同三九条違反を主張するが、その実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
同第二点について。
所論は憲法三一条、同三七条違反を主張するが、その実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(所論は前掲当裁判所の判例の趣旨に副わない主張であって採るをえない。なお、所論足利銀行六丁目支店から横川二郎に対する預金を担保とする金四〇万円の貸付は、本件株金払込取扱機関の役職員らと株式会社の設立発起人らとの通謀による株金払込を仮装する行為の一環として、右支店から設立発起人に対する株式払込金の融通たるの実質をなすものであるから、右部分だけを切り離して、所論金融機関資金融通準則第五の四にいう「預金を担保とする当該預金者に対する資金の融通」に当るとすることもできない。)
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 高橋 潔 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)